2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは世界を大きく変えました。
当時は未知の感染症であり、有効な治療法も十分に確立されておらず、高齢者や基礎疾患を持つ方を中心に重症肺炎や死亡例が相次ぎました。そのような状況で登場したCOVID-19ワクチンが、パンデミック初期に大きな役割を果たしたことは間違いありません。
Pfizer-BioNTech社のmRNAワクチンの臨床試験では、当初約95%という高い発症予防効果が報告されました。
したがって、当院では積極的にインスタグラムでもワクチンの有効性と安全性に関する内容をご紹介させて頂きました。
しかし2026年現在、私たちが考えなければならないのは、
「2020~2021年に有効だったから、現在も同じように接種を勧めるべきなのか」
という大きな問題です。
「感染を防ぐワクチン」から「重症化を防ぐワクチン」へ
その後、デルタ株、オミクロン株、さらに多数の変異株へとウイルスは変化しました。
オミクロン株以降、感染・発症そのものを防ぐ効果は以前ほど高くなく、接種後時間が経過すると効果が低下することも明らかになりました。
2026年にJAMA Internal Medicineに報告された米国の大規模データでは、2024~25年ワクチンの追加的な有効性は、救急外来・緊急診療受診に対して26%、入院に対して35%、重症例に対して41%で、時間経過とともに効果が低下する傾向を認めております。
一方、別の2024~25年の研究では、入院予防効果は40%でしたが、人工呼吸管理または死亡に対しては79%の有効性が報告されました。
つまり現在のワクチンは、
「感染しないためのワクチン」から「感染した際の重症化リスクを下げるワクチン」へ、その役割が変化している
と考えるのが妥当でしょう。
また、ワクチンにも重大な副反応はあります
ワクチンを考える際には、効果だけでなく副反応についても正確に説明する必要があります。
COVID-19ワクチンの副反応の大部分は、接種部位の疼痛、発熱、倦怠感、頭痛など一過性のものです。WHOも、世界で130億回を超える接種が行われた中で、重大な有害事象は稀であるとしています。
大きな問題点は「稀である」ことと「存在しない」ことは同じではありません。
mRNAワクチンでは、特に若年男性を中心として心筋炎・心膜炎が報告されています。
発生頻度は年齢、性別、ワクチンの種類、接種回数によって大きく異なります。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が検討したデータでは、初期のPfizerワクチンの追加接種後、16~17歳男性で心筋炎・心膜炎が100万回接種あたり188例と推定された集団もありました。一方、その後の追加接種では頻度はより低く、すべての年齢・性別に同じリスクがあるわけではありません。
また、頻度は極めて低いもののアナフィラキシーもあります。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のデータでは、mRNAワクチンによる確認されたアナフィラキシーは100万回接種あたり約5例でした。
さらに、現在日本で中心となっているmRNAワクチンとは異なりますが、AstraZenecaやJanssenのアデノウイルスベクターワクチンでは、
血小板減少を伴う血栓症(TTS)という、非常に稀ながら死亡につながり得る副反応も確認されました。
これらを理由に「COVID-19ワクチンは危険なワクチンだ」と結論づけることも適切ではなく、重要なのは、重大な副反応は非常に稀ではあるもののゼロではない、という事実を患者さんにも説明したうえで接種を考えることだと思います。
シングリックスとの違いから考える
例えば帯状疱疹ワクチンのシングリックスは決して安価ではありません。
それでも当院では、対象となる患者さんには積極的にお伝えしています。
その理由の一つは、「発症そのものを防ぐ」という効果が非常に明確だからです。
大規模臨床試験では、50歳以上における帯状疱疹の発症予防効果は97.2%、70歳以上でも約90%という高い有効性が報告されています。
もちろん、帯状疱疹とCOVID-19では疾患もワクチンも異なるため、単純な数字の比較はできません。
しかし、患者さんが費用を負担し、副反応の可能性も受け入れて接種する以上、
「何を、どの程度予防できるのか」は非常に重要だと考えています。
2026年、新型コロナウイルスのワクチンを全員に同じように勧める必要があるのか
WHOも2026年3月にCOVID-19ワクチンの推奨を更新し、定期的な接種については、高齢者、重要な基礎疾患や高度肥満を持つ方、免疫不全者など、重症化リスクの高い人を中心に考える方向を示しています。
これは非常に重要な変化です。
パンデミックの初期とは、ウイルスも、社会も、そして私たちが持っている免疫も変わっています。
高齢者、免疫抑制状態にある方、重い基礎疾患を持つ方など、COVID-19による重症化リスクが高い患者さんでは、現在でもワクチンによって得られる利益は大きい可能性があります。
一方、若く健康で、すでに感染歴や複数回の接種歴がある人にまで、同じ強さで毎年接種を積極的に勧めるべきかについては、以前より慎重に考える必要があると、私は思っています
(これは「ワクチン反対」という考え方ではありません。)
そして、その効果には限界と持続期間があり、一方では非常に稀ながら重大な副反応も存在します。
このことを踏まえて
「患者さんにとって、接種によって得られる利益がリスクをどの程度上回るのか」
を個別に考えることが重要と考えております。
このため、当院では現在、COVID-19ワクチンをすべての患者さんに一律に積極的にお勧めはしていません。
年齢、基礎疾患、免疫状態、これまでの感染歴・接種歴、そしてワクチンの効果と副反応を説明したうえで、一人ひとりの患者さんと相談しながら接種を判断していくものと考えております。
森川医院では、国内外の診療ガイドラインや最新の医学的エビデンスを踏まえ、患者さんにとって「安全」「安心」「納得」の医療を提供できるよう努めています。
医療は日々進歩しています。これからも新しい知見を取り入れながら、わかりやすい情報発信を続けてまいります。気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
今回の引用文献・ガイドライン
- Polack FP, et al. NEJM. 2020.
- Andrews N, et al. NEJM. 2022.
- Wiegand RE, et al. JAMA Intern Med. 2026.
- JAMA Network Open. 2026.
- WHO SAGE, March 2026 recommendations.
- CDC ACIP/GRADE.
- European Medicines Agency. COVID-19 vaccine safety.