「今日は食事をしてきてしまったので採血は無理ですよね」という内容を外来診療を
していてお問い合わせ頂く内容が多く、今回はこの点に関してコラムの題材とさせて
頂きました。
近年は従来の「採血=絶食」という概念が少しずつ変わってきています。
この概念に基づき当院でも採血に関する診療形態を変化させており、「必ずしも空腹で来院する必要はありません」という方針にしています。
今回はその理由についてご説明します。
なぜ従来は空腹で採血していたのでしょうか?
以前は、中性脂肪(トリグリセライド:TG)は食事の影響を受けやすいため、空腹時でなければ正しく評価できないと考えられていました。
また血糖値も食後に上昇するため、「朝食を抜いて採血する」ことが一般的でした。
しかし、その後の多くの研究から、人は一日の大半を食後の状態で過ごしていることが改めて注目されました。
このことから、実際の血管は食後の環境に長時間さらされており。食後の状態も重要な健康情報であるという考え方へ変化してきました。
食後中性脂肪にも基準値があります
日本動脈硬化学会のガイドラインでは、
- 空腹時TG:150 mg/dL未満
- 非空腹時(随時)TG:175 mg/dL未満
が脂質異常症の診断基準として採用されています。
欧州動脈硬化学会(EAS)や欧州心臓病学会(ESC)でも、非空腹時採血を日常診療で積極的に活用することが推奨されています。
これらの提唱から食後での採血も可能であるという事に変遷してきているものと推測しております。
糖尿病もHbA1cが重要です
糖尿病の診療でも同様です。
もちろん空腹時血糖は現在も重要な検査です。
しかし、日常診療ではHbA1c(ヘモグロビンA1c)が血糖コントロールを評価する中心的な指標となっています。
HbA1cは過去約1〜2か月の平均血糖を反映するため、食事の影響をほとんど受けません。
そのため、「今日は朝食を食べてしまったから採血できない」
ということは必ずしもありません。
患者さんにとっても受診しやすくなっています。
夏場は特にメリットがあります
夏になると、朝食だけでなく水分まで控えて来院される方が少なくありません。
これは現在の気象状況から判断して、おすすめできません。
高齢者では軽い脱水でも
・ふらつき
・立ちくらみ
・血圧低下
・熱中症
につながることがあります。
特に降圧薬や利尿薬を服用している患者さんでは注意が必要です。
十分な水分を摂り、普段どおり朝食を食べて来院していただく方が、安全性の面でも望ましいと考えております。
当院が空腹採血にこだわらない理由の一つもここにあります。
ただし空腹が必要な検査もあります
一方で、すべての採血が食後でよいわけではありません。
例えば
- 空腹時血糖による糖尿病診断
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
- 詳細な脂質代謝評価
- 一部の内分泌検査
などでは空腹での検査が必要になります。
そのため、検査内容や患者様の病状に応じて私は判断しています。
「今回は朝食を食べないで来てください」と説明させて頂く時は、その指示に従っていただければればと思っております。
患者さんの負担を減らすことも医療です
医療は「正確な診断」と同時に、「患者さんが受診しやすいこと」も大切です。
朝食を抜くことが負担になり受診や採血を先延ばしにしてしまうより、普段どおりの生活の中で必要な検査を受けていただく方が、病気の早期発見・早期治療につながる場合も少なくありません。
近年のガイドラインでは、科学的根拠に基づき「必ず空腹時採血」という従来の考え方を見直しています。
当院でも最新の知見を踏まえ、患者さんの安全性と利便性を考えながら診療を行っています。
採血前の食事について不安なことがありましたら、お声掛けください。
森川医院では、国内外の診療ガイドラインや最新の医学的エビデンスを踏まえ、患者さんにとって「安全」「安心」「納得」の医療を提供できるよう努めています。
医療は日々進歩しています。これからも新しい知見を取り入れながら、わかりやすい情報発信を続けてまいります。気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
【参考ガイドライン】
- 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版(非空腹時TG 175 mg/dL以上を脂質異常症診断基準として採用)
- 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024(HbA1cを含めた糖尿病診断・管理)
- Nordestgaard BG, et al. Fasting is not routinely required for determination of a lipid profile. Eur Heart J. 2016.
- European Society of Cardiology (ESC) / European Atherosclerosis Society (EAS) Guidelines for the management of dyslipidaemias.